第6回|ピッチデザインと握り

📊 対応する当日スライド

第6回の当日スライドと、本テキストは内容を対応させています。 スライドは「現場で握る要点」です。テキストは「読み返して理解を深める詳細版」です。この違いで使い分けてください。

この章で押さえる3つのこと

  1. 前回のリリースとフォロースルーを、指先とボールまでつなげます。握りと手の構造を知ると、指先までの力の伝え方が分かります
  2. ボールの変化は、回転数よりも回転軸(回転の向き)で決まる部分が大きいです。原理原則を知ると、トラッキングデータの数字が読めるようになります
  3. 数字は、自分の強みを活かし、打者が打ちづらいボールを投げるために使います。数字をクリアすることが目的ではありません

この回の位置づけ

ひとことで言うと、前回のリリースとフォロースルーの話を、指先とボールまでつなげる回です。そのうえで、トラッキングデータを使って「自分の強みをどう活かすか」「打者が打ちづらいボールをどう投げるか」を考えていきます。

第5回では、リリースとフォロースルーを扱いました。第2回から第5回までで、下半身から指先まで一本につながる投球の土台(アトラクター)は完成しています。今日はその先、ボールに最後に触れている手と指、そしてボールそのものに目を向けます。

今日の流れは次の5つです。

  1. 握りと手の構造:指の骨・関節・筋肉の仕組みと、握り・リリースの指の使い方
  2. ボールが変化する原理原則:ボールはなぜ曲がるのか。回転数・回転軸・縫い目
  3. トラッキングデータの数値を読む:ラプソード・SmartScout・Baseball Savantの数字の意味
  4. 自分の強みを活かす:数字から自分の球の特徴を知り、球種と組み合わせを設計する
  5. 打者が打ちづらいボールを投げる:ピッチトンネル、角度、コントロール

Part1|握りと手の構造

ひとことで言うと、前回のリリースの続きとして、ボールに最後に触れている指と手の仕組みを知り、指先まで力を伝える握りを確認します。


握りと指の構造(第5回の続き)

ひとことで言うと、第5回で確認した通り、中指と人差し指に均等に圧がかかればまっすぐ進み、どちらかに偏れば、その方向にボールが曲がります。

第5回で確認したように、指の関節には3つあります。手のひらに一番近いMP関節、第2関節のPIP関節、指先に近い第1関節のDIP関節です。良いピッチャーほど、リリースの瞬間にボールが離れた後も、指先でボールに圧を加え続けることができます。

DIP・PIP・MP関節

「第一関節」「第二関節」という呼び方ではなく、DIP・PIP・MPという名前を使うのは、医療の現場での習慣でもあります。記録の書き間違いで、誤った場所に処置をしてしまうことを防ぐためです。指導の場面でも、この呼び名をそのまま使うと、どの関節のことかが人によってズレません。

骨で捉える意識

指は、骨・お肉・爪の3つのエリアに分けて考えることができます。指先の骨の周りをお肉が覆い、お肉だけでは柔らかすぎて形がすぐ変わるので、硬さを補うために爪があります。骨でしっかりボールを捉えられていれば、力を効率よく伝えられ、マメや爪割れも起きにくくなります。反対に、骨ではなくお肉のエリアでボールを捉える癖がついていると、お肉がずれてめくれるような動きが起き、その負担が爪に伝わって爪が割れやすくなります。

骨のどこで捉えるかは人によって違います。共通しているのは「まず骨で捉える」という土台で、そこから自分に合う位置を探していきます。マメや爪割れが続く選手は、骨ではなくお肉のエリアで捉えていないか、一度確認してみてください。骨で捉える意識を持つだけで、負担がかかる場所そのものを変えられるというのが、私の実感です。

握りの基本的な考え方は、次の通りです。

この「圧の偏り」を言い換えると、指の骨(中心)とボールの中心がまっすぐぶつかる当たり方が中心衝突、中心同士がずれた当たり方が偏心衝突です。中心衝突は力を一番効率よく伝えられる当たり方で、ストレートはこれに近いほどまっすぐ力が伝わります。変化球は、わざと中心をずらした偏心衝突によって、回転という形で別の効果を生み出しています。どちらが優れているわけではなく、まっすぐ力を伝えたいか、変化という効果を取りたいかの違いです。

投げ終わりにかけては、回内の動きが入ることで、適切に減速することができます。この回内は、意識して作るというより、全身でしっかり減速できている投手ほど自然に出てくる動きです(第5回参照)。

手首が反り返る(背屈する)と、ボールの力が弱くなる

リリースの瞬間、手首が大きく背屈してしまうと、ボールに十分な圧をかけられず、力が弱くなります。手首をまっすぐな状態に保てているほど、指先に力を伝えやすくなります。

リリースの最後、指はどう動くか

指は、リリースの瞬間まで同じ形で曲がり続けているわけではありません。腕を振ると遠心力でボールが離れようとするので、指は一度伸びていきます。しかし最後の瞬間だけ、指先側の関節が曲がりに転じ、結果として指が曲がった状態でボールが離れていきます。この指の形を鉤爪リリースと呼びます。第5回で確認した、DIP関節を屈曲させたまま、リリース直前まで長く保つという感覚は、この鉤爪の形そのものです。

この鉤爪の形を、腕の振り方そのものから作る考え方がLEGOリリースです。握りの形を変えずに一定に保ち、ボールをしっかり押し込んでホールド力をかけておくと、腕を振って生まれる遠心力がそのホールド力を上回った瞬間に、ボールが押し出されるように離れていきます。ホールド力と遠心力のバランスが崩れると、ホールド力が足りずに早く抜けてしまう「抜け球」や、逆に離すタイミングが遅れる「引っ掛け」が起きます。抜け球が多いなら握りをもう少し強く、引っ掛けが多いなら腕の振り(遠心力)をもう少し強くする、という調整の目安になります。

LEGOリリース
指が伸びてしまっている=鉤爪がキープ出来ていない
鉤爪リリース

指の力・コントロールに関する研究

握りの3つの要素

握りを安定させ、力を効率よく伝えるための工夫として、次の3つの要素があります。これを対立握りと呼びます。

  1. 親指の向き:親指を立てた状態ではなく、折りたたんだ状態にします。親指が最後までボールに当たっていると、リリースの瞬間にボールが親指につまずき、上向きに抜けやすくなります。指先から出るボールの向きを0度とし、上向きをプラス、下向きをマイナスで表すリリースアングルという数値があり、下向き(マイナス)ほど指でしっかり叩けていることを示します。プロの投手ほど、この数値がマイナス側に出る傾向があるとされています。親指を折りたたむことが、この数値を整える土台になります。
  2. 指とボールの隙間を埋める:握ったときに指とボールの間に隙間があると、ボールが手の中で動きやすくなり、不安定になります。隙間を埋めて握ることで、ボールが安定し、ホールド力の上限そのものを引き上げることができます。
  3. 人差し指と中指を閉じる:2本の指を軽く閉じ合わせることで、指の中にある細かい筋肉(手内在筋)が働きやすくなります。

この3つに共通しているのは、どれも繊細な把握(イメージした通りの力加減でボールをコントロールする能力)を支えているという点です。指を大きく曲げる力は、手の外から始まる手外在筋が担いますが、その力が発揮されている最中に手内在筋も働くことで、力加減の細かい調整ができるようになります。コントロールが安定しない選手は、気持ちや集中力の問題として片付けず、この握りの3つの要素を確認してみる価値があります。

繊細な把握
繊細な把握=手外在筋が引き伸ばされる+手内在筋をしっかり使う
手内在筋と手外在筋
手内在筋をしっかり使う
手外在筋が引き伸ばされる

親指の使い方(握り講座 親指編)

ひとことで言うと、親指は「止める指」です。人差し指・中指が加える力に、親指で抵抗をかけることで、ボールに吸い付くリリースが生まれます。

① 作用点と偶力:ボールを握ったとき、人差し指・中指で力を加えている点が作用点です。そこに力を加えると偶力が生まれ、回転軸ができて、ボールが回転しながら飛んでいきます。

② 親指の抵抗が、作用点の力を強くする:作用点が生んだ偶力に親指で抵抗をかけると、進もうとする力を止めるので、作用点側に強い力がかかります。これが「吸い付きリリース」、つまりLEGOリリースの中身です。見た目の判断基準は、腕の振りに対して、ボールが一瞬指に吸い付いてから飛び出す「ラグ」があるかどうかです。

③ 力積|触れている時間を伸ばす:吸い付く力でボールに触れる時間を伸ばすほど、力が伝わります。これを力積といいます。リリースは一瞬の動作に見えますが、触れている時間を伸ばすことで、下半身から伝わってきたエネルギーをボールに伝えきれます。

④ 抵抗のかけ方は「垂直」と「接線」の2種類:

どちらがいいかは人によります。親指の向き次第で、どちらかしかできない場合もあります。選手は投げてみての感覚で、指導者はフォームと握りを見たうえで判断します。

⑤ 親指をかける位置|シームか革か:ボールは、シーム(縫い目)の部分と白い革の部分に分かれます。シームの中でも「縫い目を越えた向こう側」「縫い目の間」、革の部分でも「丸みの頂点」「手前のくぼみ」など、複数の候補があり、手の大きさや握り方でベストが変わります。シームにかけられる選手は、突起に引っかかってホールド力が高まりやすいです。シームに届かない選手は、革の部分で一番良い位置を探します。革は滑りやすいので、ロージンで調整することもあります。

⑥ 作用点と抵抗を一直線に揃える:正面から見たとき、人差し指・中指の作用点と親指の抵抗の位置がずれていると、力が逃げます。昔からある「3点を揃える」指導(作用点2点の間に親指を合わせる)と同じ考え方です。この考え方は、ストレートだけでなく変化球にも使えます。

⑦ シームは凸ではなく凹にかける|復元力:ボールは球体なので、シームはいつもくねくねと曲がっています。指をかけるなら、凸(出っ張り)より凹(くぼみ)にかけた方が引っかかりやすいです。くぼんだ場所に力をかけると、どこに力をかけても最終的に同じ中心点に向かって力が集まります。これを復元力といいます。丸く出っ張ったところにかけると、ぴったり合えば引っかかりますが、少しでもずれると横に滑ります。

⑧ 指先にも「運動連鎖」がある|握りが得意な回転を決める:体の関節は、効率よく動くための決まった組み合わせで動きます(運動連鎖)。大きく分けると2つです。

組み合わせ 体の動き 握り 得意なこと 気をつけること
丸々組み合わせ 骨盤後傾・背骨屈曲・肩甲骨外転・肩内旋・前腕回内・股関節外旋 小指・薬指を伸ばし気味にして、ボールのすぐ横に添える 回内が出やすく、強いスピン・高い回転効率を得やすい しなりを作るのは苦手
反る組み合わせ 骨盤前傾・背骨伸展・肩甲骨下制内転・肩外旋・前腕回外・股関節内旋 小指・薬指をしっかり曲げて、中指との間を大きく空ける 回外が出やすく、しなりを作りやすい。スライダー・カーブなどスライド系が得意 まっスラ(ジャイロ角過多)になりやすい。肘の内側へのストレスが増えやすい。コントロールが悪化しやすい

握りと運動連鎖が逆方向だと、ケガのリスクが上がります。反る組み合わせが出やすい握りなのに回内動作を強くさせる、または丸々組み合わせが出やすい握りなのに無理にしならせようとする。どちらも体にとって非効率な動きになり、力も出ず、関節に負担がかかります。ボールの回転から握りを逆算し、自分が得意な運動連鎖に合わせて、フォームや握りを組み立てます。

⑨ 親指の向き:反る組み合わせが得意な選手(小指・薬指が曲がる握り)は、対立握りを無理にがっちり横にしなくても、親指をやや縦気味にする方がやりやすい傾向があります。丸々組み合わせが得意な選手は、小指・薬指を軽く横に添え、親指はしっかり横に倒します。どちらでも大事なのは、手内在筋を使ったうえで手外在筋を使う「繊細な把握」を発揮することです。


手と指を整えるドリル

ひとことで言うと、ここまでの「骨で捉える」「対立握り」「繊細な把握」を体に定着させるための、指と手のドリルです。

隙間を埋めて手内在筋の活動量を増やし、ホールド感を高め、思う存分胸郭の回旋を出せるようにしましょう。

手内在筋をしっかり鍛えておく

やり方は当日、実技で示します。ここでは種目の名前と、何のためのドリルかを先に押さえておいてください。

種目 目的
ビッグハンドドリル 手が小さく、対立握りの形がまだ届かない選手向け。ほぐしと手内在筋で握りの感覚を整える(下に詳しく)
てのひらほぐし ゴルフボールで手のひらをほぐす(下に詳しく)
指もみグッズ(カニカニはさみちゃん) 当日説明します
フィンガートレーナー+キャップ 当日説明します
回内叩き 鉤爪・LEGOリリースの形をキープして、真っ直ぐ叩きつける(下に詳しく)
サンドボール(500g・1000g) 重いボールで中心衝突と鉤爪リリースの感覚をつかむ
親指滑り 指を伸ばしたまま、親指の外側を小指の内側に当てて滑らせる(下に詳しく)
親指小指繋ぎ 指を真っ直ぐに保ったまま、小指を曲げて親指の先と繋ぐ(下に詳しく)
親指小指繋ぎ・閉じ開き 親指小指繋ぎの状態で、小指を閉じたり開いたりする(下に詳しく)
腹つけ 指を伸ばしたまま腹同士を押し付け、指の間の手内在筋に効かせる(下に詳しく)
腹押し 親指と小指の腹で押し合い、母指球・小指球を固くする(下に詳しく)
内在筋フック バーを引かれる力に、手内在筋でフックを強めて耐える(2人1組・下に詳しく)

ビッグハンドドリル

目的:手が小さく、対立握りの形がまだ届かない選手向けのドリルです。手のひら・手の甲・指の関節をほぐし、手内在筋(安定筋)を働かせて、握りの感覚を整えます。

方法:1本のドリルの中に、次の流れが入っています。

  1. 握り感覚チェック:鷲掴み → 4シーム → フォーク → チェンジ(中指と薬指の間)と、いつもの握りを順番にボールで握って、感覚を確かめる
  2. ①デコピンほぐし:手のひらのA〜C(掌の筋肉)、D〜F(手根骨)の6点を、反対の指で強く押さえてデコピンをする。各部8回
  3. ②中手骨間バタバタ:手の甲の骨(中手骨)の間に、反対の指を数本食い込ませて、波打つようにバタバタと動かす。10回ずつ
  4. ③安定筋(手内在筋):全ての指の一番先の関節(DIP関節)を伸ばした状態でグーをする。手首を甲側に曲げて、親指・人差し指・中指を8割くらいの力で5秒握る。手をひっくり返して、同じように薬指・小指を8割の力で5秒握る。5〜10セット
  5. ④お灸(指の関節)/⑤お灸(水かき):指の関節と、指の間(水かき)にお灸をつけて温める
  6. 最終チェック:もう一度4シームなどで握り直し、最初のチェックと比べて仕上がりを確かめる

握り感覚チェック

鷲掴み
4シーム
フォーク
チェンジ(中薬間)
チェンジ(中薬間)

①デコピンほぐし/②中手骨間バタバタ

デコピンほぐし A〜F
デコピンほぐし
中手骨間バタバタ

③安定筋(手内在筋)

安定筋 グー
安定筋 親指・人差し指・中指
安定筋 薬指・小指

ポイント:A〜Fは「ズーンとくる」ポイントです。最初と最後に同じ握りでチェックして、握りの感覚がどう変わったかを自分で比べます。

注意点:デコピンをするときに、押さえている指が緩まないように気をつけます。お灸は、熱くなりすぎたら、または冷めたら取ります。

てのひらほぐし

目的:ゴルフボールで手のひらの筋肉をほぐし、握りの準備をします。

方法:

  1. 肘をついた状態で、ゴルフボールを手のひらの「小指外転筋」あたりに当てる
  2. ①縦(上下)②横(左右)③回す(円を描く)の順でほぐす
  3. 小指球・母指球も、同様にほぐす

ポイント:痛気持ち良い位の強さで、ゆっくりじっくり行います。

注意点:やりすぎに注意します。

ゴルフボールを小指外転筋に当てる・肘をつく
①縦
②横
③回す
小指球・母指球も同様にほぐす

回内叩き

目的:鉤爪リリースとLEGOリリースの形をキープしたまま、ボールを真っ直ぐ叩きつける感覚をつくります。

方法:

  1. ボールを鉤爪の形で持ち、手の甲を前に向ける(回外)
  2. おへその高さギリギリまで、回外を保ったまま腕を下ろす
  3. ボールを床に向けて真っ直ぐ叩きつけ、跳ね返ったボールをキャッチする

ポイント:

注意点:おへその高さより手前で回外が崩れないようにします。

腹つけ

目的:指を伸ばしたまま、指と指の間にある細かい筋肉(手内在筋)に効かせます。

方法:

  1. 隣り合う指(親指と人差し指、人差し指と中指など)を1組ずつ選ぶ
  2. 指を伸ばしたまま、指の腹同士を押し付ける
  3. 全ての指の組み合わせで行っていく

ポイント:手のひら側の、指の骨と骨の間(付け根のあたり)が辛く(効いて)なってきていればOKです。

注意点:指を曲げずに、伸ばしたまま押し付けます。

腹押し

目的:親指と小指の腹で押し合い、母指球・小指球(親指側と小指側の手のひらのふくらみ)の手内在筋を働かせます。

方法:

  1. 親指と小指の腹で押し合う
  2. 他の指も伸ばしておく
  3. 5秒キープを5〜10セット

ポイント:小指球と母指球が固くなっていればOKです。

注意点:押し合っている間も、他の指を伸ばしたままにします。

親指滑り

目的:親指を小指側まで大きく動かし、親指の動く範囲を広げます。対立握りで親指を折りたたむ動きの準備になります。

方法:

  1. 全ての指を伸ばした状態にする
  2. 親指の外側を、小指の内側に当てながら滑らせる

ポイント:親指の外側が、小指の内側にしっかり当たったまま滑っていることを確かめます。

注意点:他の指は伸ばしたままにします。

親指小指繋ぎ

目的:親指と小指を、指を真っ直ぐに保ったまま繋ぎ、手のひらの細かい筋肉(手内在筋)で形を支える感覚をつくります。

方法:

  1. 他の指も真っ直ぐに伸ばす
  2. 小指を曲げて、親指の先と繋ぐ
  3. 親指と小指は真っ直ぐに保つ

ポイント:親指と小指が曲がりすぎないようにします。

注意点:他の指も真っ直ぐに伸ばしたまま行います。

親指小指繋ぎ閉じ開き

目的:親指小指繋ぎの形を保ったまま小指を動かし、手内在筋を使う感覚を強めます。

方法:

  1. 親指小指繋ぎをした状態にする
  2. 小指を閉じたり開いたりする

注意点:他の指が曲がらないようにします。

内在筋フック

目的:バーを引かれる力に対して、手内在筋でフック(指の引っかかり)を強めて耐える力をつくります。鉤爪リリースの形を支える力です。

方法(2人1組。1人がバーを引く):

  1. バーにDIP関節を曲げて引っかける
  2. 親指・薬指・小指の腹をつけておく
  3. パートナーがバーを引く
  4. バーを引かれるのに対して、親指・薬指・小指の腹をキュッと押し合って、フックを強めることで耐える

回数:

注意点:人差し指・中指で操作しません。耐えるのは、親指・薬指・小指の腹を押し合う力です。


Part2|ボールが変化する原理原則

ひとことで言うと、ボールがなぜ・どちらへ曲がるのかを、回転と縫い目の仕組みから確認します。


ボールが曲がる仕組み

ひとことで言うと、ボールの変化は、回転の量そのものよりも、回転の向き(軸)で決まる部分が大きいです。縫い目の向きも、別の力として軌道に関わります。

ボールが曲がる基本の仕組みは、マグヌス効果です。回転しているボールの周りの空気の流れが変わることで、揚力が生まれて軌道が曲がります。

ここで大事なのは、回転数の多さそのものではなく、その回転がどの向きを向いているかです。早稲田大学グループの研究では、ボールの揚力係数は回転数そのものとは相関せず、「回転数×回転軸と進行方向のなす角のsin」と相関することが報告されています。つまり、同じ回転数でも、回転軸の向きが変わるだけで変化量が大きく変わるということです。この回転軸の向きは、手首や指の動きの組み合わせで決まることも報告されています。

なお、大学・プロの投手を対象にした実測研究では、ストレートは球速が速い投手ほど回転数も多い傾向が確認されています。

もう一つ、回転とは別に軌道を変える力があります。縫い目の向きによって、ボールの片側だけ空気の流れが早く剥がれることで、マグヌス効果だけでは説明できない追加の変化が生まれる現象です。これは実験的に、約55フィート(投球距離相当)ボールを投射して確かめられており、縫い目が大きいボールほど効果が大きいことも分かっています。この現象は「縫い目の後流のずれ」と呼ばれ、近年のピッチデザインで重視されている考え方のひとつです。

回転の向きとボールが変化していく向きは、同じ方向を向きます。ボールの上側が自分から見て後ろに回っていれば上方向に変化し、下側が後ろに回っていれば下方向に変化します。左右の回転も同じ考え方です。自分の球がどちら向きに回っているかを知っておくと、どちら向きに変化するかもあらかじめ想像できます。

回転軸が進行方向をそのまま向いているジャイロ回転は、この変化にほとんど使われません。回転軸が完全に進行方向を向いたボールは、左右にも上下にもほとんど変化せず、重力の分だけそのまま沈んでいきます。回転数そのものを増やすことと、回転軸を変化に使える向きへ持っていくことは、別の作業だと分けて考える必要があります。

球質は「球速+回転数+回転軸」で見る

球質は、球速・回転数・回転軸の3つを合わせて見たボールの質です。

ラプソードで測って「回転数が多い」と喜ぶ選手は多いですが、球速と回転数だけでは球質は分かりません。一番大事なのは回転軸です。

回転軸は、横から見た向きと、真上から見た向きの2つで測れます。バックスピンの効いたストレートを投げたいなら、横から見た軸を地面と水平にし、手のひらを捕手に向けて離すのが理想です。ただ、腕を振ると遠心力がかかるので、オーバースローでも軸は20〜30度ほど傾くのが普通です。体を傾けて真上から投げるタイプの投手なら、水平に近い軸も作れます。

手のひらの向きも軸を変えます。手のひらが捕手に向く角度を0度として、小指が先に出る形(右投手なら手のひらが一塁ベンチ側を向く)で離すと、軸が傾いてジャイロ成分が入ります。いわゆる「まっスラ」です。回転数が多くても、バックスピンの効果が薄れて打ちやすい球になります。ただし、ジャイロ成分がすべて悪いわけではありません。曲がり球系の変化球では、手のひらの角度でジャイロ成分を調整することが大事になります。

回転軸は、調子で変わる

人は2つのものを同時に比べることはできても、3つを同時に比べるのは難しいと言われます。球速・回転数・回転軸のうち、日々の変化が一番よく見えるのは回転軸です。毎日ブルペンで測っていると、球速と回転数はあまり変わらなくても、回転軸は体の状態によって違ってきます。

日頃から回転軸を見ておけば、こうした崩れを早めに防げます。

ジャイロ角度は、回転効率(投げたボールの回転のうち、バックスピン・トップスピン・サイドスピンが占める割合)で表すこともできます。目安として、優れたストレートを投げる投手は、ジャイロ角度10度以下・回転効率90%以上です。ジャイロ角度が20度以上になると、回転効率は80〜90%に落ちます。右投手が右打者の外角(左投手なら左打者の外角)を狙うと、対角に投げようとして小指が前に出やすく、内角に比べて回転効率が落ちる投手が多いです。

「伸び」の正体

「伸びのあるストレート」「キレのあるストレート」は、分かるようで説明が難しい言葉です。トラッキング機器が出てくる前は、「初速と終速の差が小さい球=伸びがある」と考えられていました。しかし、これは間違いです。

実際には、バックスピンがかかっているほど空気の抵抗を受けるので、初速と終速の差は大きくなります。反対に、ジャイロスピンのように進行方向への回転が少ないと、空気の抵抗を受けにくく、初速と終速の差は小さくなります。回転数が多いとボールはホップして見え、回転数が少ないとボールは減速せずに打者へ迫ってくるように感じます。

全員がきれいなバックスピンのフォーシームを投げる必要もありません。フォーシームの回転なのに打者の手元で沈む球(「垂れ系」と呼ばれることもあります)なら、ゴロを打たせられます。

回転方向は「時計」で読む

回転方向は、時計の針に見立てて表します。投手から見て、バックスピンを12時とします。

時計 回転 右投げ 左投げ
12時 バックスピン ー ー
3時 横回転 シュート スライド
6時 トップスピン ー ー
9時 横回転 スライド シュート

12時から3時、6時、9時へと、時計の短針が進むように回転方向が回っていきます。

身体の構造上、ストレートは12時ちょうどにはなりません。30分〜1時間半ほど、利き手側にずれます。

自分のストレートの回転方向がこの範囲のどこにあるかを知ると、Part3で見るトラッキングデータの数字が、自分の体の使い方とつながって見えてきます。

SSW(シームシフトウェイク)|縫い目で回転方向がずれる

ひとことで言うと、回転による変化にプラスして、シーム(縫い目)による空気抵抗でもボールが変化する、ということです。

SSW(シームシフトウェイク)とは、ボールの縫い目(シーム)の位置や傾きによって空気の流れが非対称になり、マグヌス効果(回転による変化)とは異なる方向へ変化を生じさせる現象です。近年のトラッキングシステム(StatcastやRapsodoなど)の進化により、マグヌス効果による「理論上の変化方向」と「実際の変化方向」にズレがあることが分かり、その原因として解明されました。

シームの位置によって「回転方向」が変動します。回転のしかたは、シームの出方で3種類に分けられます。

それぞれ、回転方向が時計で何時間分ずれるかの目安は次のとおりです(ざっくり、こう覚えておくと良い、という目安です)。

4シーム 2シーム 1シーム
右投手 1時間戻る 1時間進む 2時間進む
左投手 1時間進む 1時間戻る 2時間戻る

※ジャイロ回転だと、真下に落ちます。

実例:大谷翔平選手の4シームは、実際の回転では1時前後の回転方向ですが、シームの空気抵抗による実際の軌道から見た回転方向は12時半になっています。ホップ成分が増え、シュート成分が減りやすくなっています。スライダー(スイーパー)も、実際の回転では8時〜8時半前後ですが、実際の軌道から見ると9時〜9時半になっていて、スライド成分が増え、ドロップ成分が減り、横に大きく曲がるようになっています。

SSWのもう一つのメリット|打者を欺ける

打者は、過去の経験から、腕の振りの角度や強さで回転の仕方を予想し、その回転から変化の仕方を予想してスイングします。SSWは実際の回転と異なる変化をするので、その予想を裏切るような変化方向を作ることができれば、打ち取る可能性がグッと上がります。Part5の「打者が打ちづらいボール」につながる話です。

ジャイロ角は「回転軸と進行方向」で読む

ジャイロ角は、ボールの回転軸が、進行方向に対してどれだけ傾いているかを表します。

0度に近いほど、回転がそのまま変化に使われます。90度に近づくほど、アメフトのボールやライフルの弾のような回転(ジャイロ回転)になり、変化に使われる回転が減っていきます。

ジャイロ角

変化量は「回転が作り出した力」

変化量とは、重力は関係なく、単純に回転によって作り出された力のことです。

実際にその数値の分だけ動いているわけではありません

変化量は、回転が作り出した力の大きさを表した数字です。ボールが実際にその数値の分だけ動いているわけではありません。

成分 力の向き 符号
ホップ成分 上に行こうとする力 +
ドロップ成分 下に行こうとする力 −
右投げのシュート/左投げのスライド 右に行こうとする力 +
右投げのスライド/左投げのシュート 左に行こうとする力 −

(左右は、投手から見た向きです)

変化量

回転数・回転効率・有効回転数

例えば、回転数が2500回転のとき、次のようになります。

例 回転効率 有効回転数 意味
4シーム 100%(回転軸真横の綺麗なバックスピン) 2500回転 作り出した回転を余すことなく、上に行く力に使えている
4シーム 60%(ジャイロ回転) 1500回転 100%のときに比べると「1000回転分落ちている(伸びがない)」
スライダー 40%(ジャイロ回転) 1000回転 100%のときに比べると「1500回転分落ちている」が、スライダー(落とす球種)なので問題なし

回転効率100%の4シームは、作り出した回転を余すことなく上に行く力に使うことができているので、ノビのある4シームということになります。同じ回転数でも、球種によって「回転効率が高い方がいい」とは限りません。その球種で何をしたいかで、見るべき数字が変わります。

リリースアングル

リリースアングルは、指先から出るボールの縦の向きです。0度を境に、次のように読みます。

リリースアングル 状態
+域 抜け球
0度 ー
−域 かかった球

平均は、NPBで−5度、MLBで−8度です。

リリースアングル

ホライゾンタルアングル(水平角)

ホライゾンタルアングルは、指先から出るボールの横の向きです。

向き 符号
ホームベース中心より右側 −
ホームベース中心より左側 +

リリース高・リリース幅

リリース高・リリース幅

重要なのは「球種による差」

リリース高、リリース幅、エクステンション(ラプソードの上位機種なら計測可能)の球種差が大きいと、フォームによって球種がバレます。Part5のピッチトンネルで、打者が見分ける手前まで同じ軌道を通す話につながります。

リリース高さの低下が緩やかな方が、再現性が高くなります。

回転方向と有効回転数

書籍『球速の正体』では、変化の向きと量について、次の2点にまとめています。

回転方向が傾くと、変化の向きも傾きます。同書では、右投手から見て右に傾けば「ボールは回転の影響で右側に変化します(=シュート)」と説明し、上から投げるオーバースローの投手でも「12時よりは約20度右に傾いた12時40分程度の回転方向になることが多いです」としています。そのため、「必然的にほとんど全ての投手のストレート(と呼んでいるボール)はシュートします」。

変化の量を決める有効回転数は、ジャイロ角度で大きく変わります。同書は「ボールの進行方向と回転軸が近ければ(ジャイロ角度が大きければ)、ボールの変化量に影響を与える回転数(有効回転数)は少なくなります」と書いています。回転効率は「有効回転数を回転数で割ったもの」で、目安は「ストレートであれば、95%を超えていることが目安です」(『球速の正体』より)。

回転数2500rpmのとき、ジャイロ角度と有効回転数の関係は次のようになります(『球速の正体』表2「ジャイロ度と有効回転数(出典:Hiro's LAB)」から抜粋)。

ジャイロ角度[度] 回転効率[%] 有効回転数[rpm]
0 100.0 2500
10 98.5 2462
20 94.0 2349
30 86.6 2165
45 70.7 1768
60 50.0 1250
90 0.0 0

ジャイロ角度が90度(回転効率0%)になると、ボールの変化量に影響を与える回転がなくなるので、ボールは自然落下と同じ変化になります。同書では、スライダーやカットボール、フォークボールなどはジャイロ角度が大きくなることが多く、自然落下に近づくと「人の目には『落ちた』『曲がった』ような錯覚を与えます」と説明しています。

目安の数字は、本によって少し違います

上の「回転軸は、調子で変わる」では、別の書籍の目安として「ジャイロ角度が20度以上になると、回転効率は80〜90%」と紹介しました。この表では、ジャイロ角度20度で回転効率94.0%、30度で86.6%です。測定機器や計算の仕方の違いによるものと考えられます。どちらも「ジャイロ角度が大きくなるほど、変化に使われる回転が減る」という傾向は同じです。数字そのものより、自分の数字が前回からどう変わったかを見てください。


変化球の向きは、加圧の方向で決まる

前のセクションで確認した通り、ボールは回転している方向にそのまま変化していきます。では、投げ手はどうやって回転の向きを作っているのでしょうか。握りの中で指から加える圧(力)の向きが、その回転の向きを決めています。

バックスピンをかけているつもりでも、知らないうちに回転軸が進行方向側にずれてしまうことがあります。この状態をなんちゃってジャイロと呼び、スライダーのような変化になりやすい癖です。自分がどちら向きに圧をかけているかを知っておくと、狙った変化球に近づけやすくなります。

中指・人差し指でボールに回転をかける方向と、親指で止める方向がずれると、狙った変化球になりません。たとえば、カーブを投げているつもりなのにスライダーのように横へ滑ってしまう選手は、中指・人差し指がボールの奥までしっかり入っているのに、親指がそこまで追いついていないことがあります。中指の動きに親指の位置を合わせることで、狙った回転に近づけやすくなります。

私の仮説:スライダー系と上腕二頭筋の負担

中指に強く圧をかけて曲げるタイプの変化球(スライダー系)は、リリースの形として上腕二頭筋への負担がかかりやすい投げ方になることがあります。ある選手が肘や上腕二頭筋に違和感を訴えたタイミングと、スイーパーを多投していた時期が重なっていたのではないか、という見方もあります。ただしこれはあくまで一つの仮説であり、実証されたものではありません。断定せず、「自分の握りと負担のかかり方を知っておく」材料として受け取ってください。

まっスラ対策の「ツーシーム矯正法」

ひとことで言うと、ツーシームの握りで「ボールの奥を掴む感覚」を覚え、4シームのジャイロ回転を減らすドリルです。

なぜまっスラになるのか:4シームで投げたとき、中指が先行して、人差し指が残ってしまうと、回転軸が前を向きます。いわゆるジャイロボールになり、ストレートがスライドしていきます(まっスラ)。Part2のジャイロ角が大きい状態です。

なぜツーシームで練習するのか:4シームの握りのまま「ボールの奥を掴もう」としても、縫い目の作り上、引っかかる場所が奥に来ないので、その感覚を覚えにくいからです。

縫い目の向きも、握りと組み合わせて軌道に関わります。前述の「縫い目の後流のずれ」は、縫い目の向きを変えるだけで、回転やマグヌス効果とは別に、ボールの軌道を変える現象です。握りを調整するときは、指の位置だけでなく、縫い目がどの向きを向いているかも合わせて確認する必要があります。


Part3|トラッキングデータの数値を読む

ひとことで言うと、ここまでの原理原則が、測定機器の画面ではどの数字に表れるのかを確認します。


Baseball Savantで見る5つ

ひとことで言うと、Baseball Savant(MLB公式のデータサイト)には多くの指標がありますが、高校生が見るならこの5つで十分です。

① 球速×エクステンション=体感速度

球速(Velocity)は、ボールの最高速度そのものです。エクステンションは、リリース位置がプレートからどれだけ前に出ているかを表す距離です。腕が長く身長の高い投手ほど長くなる傾向があります。

リリースが前にあるほど、打者との距離が短くなるため、ボールが実際の球速よりも速く見えます。MLB公式の説明では、「93mphの速球が96mphに見える」という例が挙げられています。単純な球速だけでなく、このエクステンションも合わせて、自分の「見た目の速さ」を考えることができます。

ただし、エクステンションは手軽に測れる指標ではありません。ラプソードでも一番上のモデルでないと測れないため、PDPでは測りません。「リリースが前にあるほど速く見える」という考え方として押さえておいてください。

エクステンションは、打者に近いところで離すほど、体の前で腕を振れるので、スライダー系の球を得意にする傾向があります。書籍では、MLBのエクステンションの平均は195センチと紹介されています。身長に対する比率(身長比)は、全体の数字は把握できていないとしたうえで、「MLBの身長比が106%であれば、日本人投手は110%前後の数字を記録する者が多い」と書かれています(体重移動=並進を大事にする日本人投手のほうが大きい)。

反対に、ステップ幅を狭くして、上から投げ下ろす角度を大事にするタイプの投手もいます。エクステンションの数字は小さくても、高い角度のストレートと落ちる変化球の組み合わせで抑えるスタイルです。どちらが正解というより、自分がどちらのタイプかを知っておくことが大事です。

軸足の使い方と、マウンドの違い

エクステンションを生む土台は、軸足の股関節を外に開く動き(専門用語でEversion)です。プレートを長く押して力を生み出すことで、①体重移動をしっかり行える ②腰の回転がコンパクトでスムーズになる ③投げる方向が定まる ④プレートを長く踏んでエネルギーを大きくし、上体の突っ込みを抑える ⑤下半身からの運動連鎖を引き出す、の5つにつながると紹介されています(第3回の「ドライブ」とつながる話です)。

書籍では、日本とアメリカのマウンドの違いも、投げ方の違いに関わっているのではないかと推測しています。日本のマウンドは土と砂が混ざっていて柔らかく、軸足で粘って体重を前へ運ぶ投げ方になりやすい。アメリカのマウンドは粘土で固く、踏み出した足で地面からの反力を得やすい。ただし、これは書籍の著者自身も「推測」としている話です。

② 回転数×回転効率

回転数(Spin Rate)は、リリース時の回転の多さです。ただし、回転数が多くても、その回転が変化に使われていなければ意味がありません。変化に寄与する回転の割合を、Baseball SavantではActive Spin(回転効率)と呼びます。純粋なトップスピン・バックスピンであれば回転効率は100%、アメフトのボールのようなジャイロ回転であれば0%に近づきます。

MLB公式の例では、2019年のリッチ・ヒルのカーブは回転効率100%、同年のジャスティン・バーランダーのフォーシームは98.5%でリーグトップだったことが紹介されています。「回転数を上げる」ことと、「その回転を変化に活かす」ことは別物だと分けて考える必要があります。

③ 変化量は「平均との比較」で見る

変化量(Pitch Movement)は、縦方向・横方向それぞれインチで表されます。ここで大事なのは、遅い球ほど落下に時間がかかるのは当然で、優れているわけではないということです。そのため、Baseball Savantでは、同じ球速帯(±2mph以内)・同じエクステンションやリリース位置帯(±0.5フィート以内)の他の投球と比較して、「平均に対してどれだけ変化量が多い・少ないか」(vs Avg)を算出しています。

球種によって「良い変化」の向きも異なります。変化球・シンカーは、vs Avgで縦方向の変化(落ち方)が大きいほど評価が高くなります。一方でフォーシームだけは逆で、vs Avgで落ちない(ライズして見える)ほど評価されます。フォーシームは物理的に上昇するわけではありませんが、打者の予測より落ちない球を「ライジングファストボール」と呼びます。

変化量のグラフの読み方

変化量は、縦軸=縦の変化、横軸=横の変化のグラフで見ます。グラフの真ん中の「0,0」が原点です。原点は、ボールがまったく回転せず、重力だけで落ちたときに届く位置を表します。そこから、回転が加わったことでどちらへ・どれだけずれたかを、点の位置で目で確かめられます。

ほとんどの投手のストレートは、ホップ成分とシュート成分が混ざっています。昔から「シュート回転のストレートは良くない」と言われてきましたが、シュート成分がまったく入っていないストレートの方がむしろ珍しいのです。シュート成分が強いなら、それを直すより、生かす方向でほかの球種を組み立てます。

もう1つ見るのは、球種どうしの間隔です。ストレート・ツーシーム・スライダー・カーブの点が上下左右に離れていれば、それぞれの球種の役割がはっきりし、打者は意識を分散させられます。反対に、すべての球種がスライド側に固まっていると、打者は「ストレートを待ちながらスライダーも打つ」という対策が取りやすくなります。グラフを見て、今の球種をあえて捨てる、新しい球種を覚える、という判断ができます。

Baseball Savantにも同じ考え方のグラフ(Movement Profile)があります。空気の力だけを取り出すために重力がないと仮定した変化量を、球種ごとに点で表したものです。同じ利き腕のMLB投手の平均が楕円で重ねて表示されるので、「平均より動いているか」が一目で分かります。表示は投手目線と打者目線を切り替えられます。

④ 球種分類の更新例|スイーパー

Baseball Savantの球種分類は、固定されたものではありません。2023年、従来のスライダーより横の変化が大きい球を、新しく「スイーパー」として独立した分類に追加しました。MLB公式の説明では、MLB平均的なスライダーの横変化は約6インチ、MLB平均的なスイーパーの横変化は約15インチとされています。新しい球種は、握りと回転の工夫から生まれ、データが追いついてきて初めて分類として確立する、という好例です。

球種の分類には、人の思い込みが入りやすいという面もあります。MLBでは、トラッキングデータの球速と変化量から自動で球種が判定されます。日本では今でも、投手本人の申告が優先されることが多いです。そのため、本人がツーシームと言っていても、データ上はシンカーに分類されることがあります。日本の投手が投げるカットボールの多くは、MLBの判定ではスライダーになる、という話もあります。

分析の基準をそろえるなら、データで分類する方が合理的です。一方で、本人の申告からは「何を狙って投げているか」という意図が分かります。PDPでは、まず数字で自分の球を分類し、そのうえで自分の狙いと食い違っていないかを確かめます。

⑤ 腕の角度(Arm Angle)

腕の角度は、2024年からBaseball Savantで公開されている比較的新しい指標です。0°が地面と完全に水平(サイドスロー)、90°が完全なオーバースローという、分かりやすいスケールで表されます。

腕の角度が低い(サイドに近い)ほど横方向の変化が出やすく、高い(オーバーに近い)ほど縦方向の変化が出やすい、という傾向が一般に語られています。ただし、この傾向を定量化した数値はBaseball Savant自体の公式情報では確認できていません。「傾向として語られている」という扱いにとどめ、断定はしません。

身近な測定機器|ラプソードとSmartScout

Baseball Savantの指標は、MLBの球場に設置された機器で測られています。私たちが同じような数字を見るには、ラプソードなどの測定機器を使います。

もう1つ、スマホで測れる方法があります。SmartScout(スマートスカウト)は、iPhoneやiPadで投球を撮影すると、AIの映像解析で数字を出してくれるアプリです(株式会社Knowhere開発。ミズノと業務提携)。投手の後方か、捕手の斜め後方から撮影します。測れるのは次の8項目です。

高価な機器がなくても、自分の球を数字で見られる時代になっています。大事なのは、どの機器でも「今の自分の球を測って、狙いを決めて、変えたら測り直す」という流れは同じだということです。

Baseball Savantの指標と、ラプソード・SmartScoutの画面に出てくる用語は、おおよそ次のように対応しています。SmartScoutで測れるのは、表の上から8項目です。

意味 Baseball Savant ラプソード SmartScout
ボールの速さ Velocity Velocity(球速) 球速(Pitch speed)
ボールの総回転数そのもの。回転効率と分けて見る必要がある数値 Spin Rate Spin Rate(回転数) 総回転数(Total spin rate)
総回転数のうち、変化に使われている回転の数 ー True Spin(真のスピン) 有効回転数(Active spin rate)
回転のうち変化に使われている割合 Active Spin Spin Efficiency(回転効率) 回転効率(Spin efficiency)
リリース時に「ボールの後ろにいられたか」。0°はジャイロ成分なし、90°は純粋なジャイロ回転 (ジャイロ成分) Gyro Degree(ジャイロ度) ジャイロ角度(Gyro angle)
回転の傾きを、時計の針の方向で表現したもの Spin Axis Spin Direction(スピン方向) 回転方向(Spin direction)
縦方向の変化量 Induced Vertical Break VB(垂直ブレイク) 縦の変化量(Vertical movement)
横方向の変化量 Horizontal Break HB(水平ブレイク) 横の変化量(Horizontal movement)
手を離れる瞬間のボールの垂直角度 ー Release Angle(リリースアングル) ー
リリース時の水平角度。マイナスは左打席方向、プラスは右打席方向を表す ー Horizontal Release Angle(ホライゾンタルアングル) ー
リリース位置の高さと横のズレ。似た条件の投球と比較するときの基準になる ー Release Height/Side(リリース高・リリース幅) ー
測定した回転・変化量から、どの球種として自動で分類されるか ー 球種選択(Pitch Type) ー

SmartScoutはスマホ1台で手軽に測れる代わりに、リリースの角度や位置までは出ません。PDPでは、まずSmartScoutの8項目で「自分の球の回転と変化」をつかみます。

SmartScoutの画面を読む(計測例)

PDPで実際に測った、右投手の4シーム1球の画面です。

SmartScoutの計測画面(4シーム1球)
項目 数値 読み方
球速 126.9km/h ー
縦の変化量 40.6cm ホップ成分(+=上に行こうとする力)
横の変化量 20.4cm 右投げのシュート方向(+=右に行こうとする力)
総回転数 2250rpm 1分間回転させ続けたと仮定した数値
有効回転数 1757rpm 実際に使えている回転数(2250×78%)
回転効率 78% ジャイロ角0度を100%として、ジャイロ角が増えるほど減る
回転方向 0:53 右投手のストレートの範囲(12時半〜1時半)の中
ジャイロ角度 39° 回転軸が進行方向にかなり近づいている

この1球から分かること:回転数は出ていますが、ジャイロ角が39度と大きく、回転効率は78%です。総回転2250のうち、約500回転分を、上に行く力に使えていません。ストレートの回転効率の目安は95%超です。回転効率が上がれば、縦の変化量(ホップ成分)が伸びる余地があります。Part1の「まっスラ対策のツーシーム矯正法」や、作用点と親指の抵抗を一直線に揃える話が、そのまま当てはまる1球です。

ラプソードの計測項目と内容

書籍『球速の正体』では、ラプソードの計測項目を次のように説明しています(表は原文どおり引用)。

項目 内容
球速[km/h] いわゆる球速。打者をアウトにする重要要素。
①回転数[rpm] 1分間あたりの回転数。
②トゥルースピン(有効回転数)[rpm] ボールの動きに影響を与える回転数。多いほどボールの変化量は大きくなる。
③回転効率[%] 回転数の内、トゥルースピンの占める割合。(回転効率)=(トゥルースピン)÷(回転数)
④ジャイロ角度[度] 進行方向と回転軸との角度の差。
⑤回転方向[〜時〜分方向] ボールが回転する方向。時計に見立てて示される。12時がバックスピンのタテ回転。6時がトップスピンのタテ回転。
⑥リリース位置(高さ)[m] 地面からのリリース位置の高さ。
⑦リリース位置(横)[m] プレートからのリリース位置の横位置。
⑧ボールの変化量(上下の変化量)[cm] ボールが回転しなかった場合(自然落下した場合)と比較した、上下方向の変化量(伸びの量、落ちの量)。
⑨ボールの変化量(左右の変化量)[cm] ボールが回転しなかった場合(自然落下した場合)と比較した、左右方向の変化量(伸びの量、落ちの量)。
⑩ボールの到達位置[cm] ボールが到達した位置。

(表:『球速の正体』表1「ラプソードの計測項目と内容」より引用)

ジャイロ角度(ジャイロ度)・回転数・変化量・リリースアングルといった項目は、ここまでの章で確認してきたBaseball Savantの指標と同じ考え方の、ラプソード側の見方です。項目名が違っても、見ているものはおおむね同じだと捉えてください。


ラプソード・SmartScoutをどう使うか

ひとことで言うと、測定の一番の使い道は「投球フォーム作り」です。数字は、自分を映す鏡です。

測定の目的は、球質の再現性を高めることです。リリースポイントを安定させ、コントロールやバランスの無駄をなくしていく。そのために測ります。数字を見ると、フォームのどこに課題があり、何を直せばよいかを推測できます。

たとえば、右投手が右打者に投げるとき、内角のストレートは投げられるのに、外角になると球が弱くなる選手がいます。データを見ると、外角のストレートは回転効率が下がりやすい、と分かることがあります。原因がフォームの再現性なのか、試合のプレッシャーやメンタルなのか。理由がデータから見えてきます。

体の構造上の特徴を知ることにも使えます。右投手が右打者に投げる場合、腕を振り下ろしやすいのは内角です。一番難しいのは外角低めです。外角低めは、内角よりも関節の可動域や腕の伸びが必要で、体への負担も大きくなります。プレートを踏む位置(一塁側か三塁側か)を変えると角度が変わり、投球の幅を広げることもできます。

ラプソードはプロや社会人も使っていますが、発展途上の選手にこそ効果的です。定期的に測ると、トレーニングの成果を確かめられ、次に必要なメニューが見えてきます。測定とトレーニングをセットにすると、相乗効果が生まれます。

もう1つ大事なのは、毎日測り続けることです。調子のいい日だけ測っても、自己満足で終わります。測り続けると、調子が良いときと悪いときの球質を比べて「なぜこの球質になっているのか」を分析し、フォームの改善に生かせます。

トレーニングの理論や道具の発達に加えて、トラッキング機器で球質を正確に測れるようになったことも、投手のレベルが上がっている理由の1つです。以前は「スピードが速い」「スライダーの曲がりが大きい」といった言い方が中心でしたが、今は「ストレートがどれだけホップしているか」「誰と比べて何センチ曲がり幅が大きいか」を数字で比べられます。

撮った動画とデータを残す

『球速の正体』では、回転数・回転方向・回転効率の改善や変更は、リリースの瞬間をハイスピードカメラで撮影して行い、「リリースを変化させる⇒カメラとラプソードでチェック、という作業です」と説明しています。スマホのスロー撮影でも、リリースの瞬間を撮って確認・改善することはできます。

計測したデータは、練習日ごとに残しておきます。前回との比較、1か月前の自分との比較ができ、「最高球速を出したボールのフォーム」を後から見返せます。同書は、あとは「感覚」を言語化して残しておけば(野球日誌、ピッチングノート)、「再現性を高められるでしょう」としています。


Part4|自分の強みを活かす

ひとことで言うと、数字から自分の球の特徴を知り、その特徴を活かす球種と組み合わせを設計します。


ピッチデザインとは何か

ひとことで言うと、ピッチデザインとは、狙う球の形を決め、測定機器で数値を確認しながら、握りやリリースを少しずつ調整していく取り組みのことです。

Driveline Baseball社は、ラプソード・スピンアクシスボール・高速度カメラという3つの道具からのフィードバックを基に、握り方やリリースポイントを試行錯誤で調整し、選手本人の感覚と数値データを照合していく過程としてピッチデザインを説明しています。日本では、ネクストベース・アスリートラボ(千葉県市川市)が、ラプソードと高速度カメラで球質を測定・撮影し、アナリストとの対話を通じて感覚とデータをすり合わせる取り組みを行っています。

いずれの取り組みにも共通しているのは、感覚だけで変化球を作るのではなく、数字で今の自分の球を確認してから調整するという順番です。球種をたくさん増やすことよりも、ひとつの球を鋭くしていくことの方が、取り組む順番としては先になります。


シュート回転は悪ではない

ひとことで言うと、周りと違う変化は、弱点ではなく強みになります。大事なのは、自分の変化量・回転数・回転効率を知っておくことです。

「シュート回転は悪だ」と言われることがありますが、そんなことはありません。シュート方向の成分が強く、それによって周りのピッチャーとの違いができるなら、それは強みになります。意図的に曲げているのか、無意識に指のタイミングがずれて曲がっているのかは別の問題として整理する必要がありますが、シュート回転そのものを否定する必要はありません。自分の変化量・回転数・回転効率がどうなっているかを知っておくことが、強みを活かす第一歩です。

打者は、同じような軌道の球には対応しやすく、「あれ?今の何?」と思う球への対応には時間がかかります。トラッキング機器が広まってからよく言われるのが、「平均から外れる球は有効」という言葉です。打者が想像しているより落ちない、あるいは落ちる。その「想像」は、打者がそれまでに見てきた平均の球によって作られています。

ここで忘れてはいけないのは、投手の役割は、打者をアウトにすることだという当たり前の事実です。つまり、打者がどう感じているかです。回転数を上げることにこだわって、数字は上がったのに、打者から見ると素直な回転で打ちやすい球になった、という例はいくつもあります。数字に興味を持つことは大事ですが、数字をクリアすることが目的にならないように、選手も指導者も気をつけておく必要があります。


球種ごとに狙う形

ひとことで言うと、ここから紹介する内容は、各測定機器メーカーやトレーニング施設が自社の解説記事で示している考え方です。研究で実証された基準ではなく、現場での目安として扱ってください。

腕の角度と球種の相性については、角度が低い投手はシンカー・ラン系の球と相性が良く、オーバースロー寄りの投手は4シームの伸びやカーブの縦変化と相性が良い、という一般的な傾向が複数の解説記事で紹介されています。ただし、これも定量的に実証された基準ではなく、現場の傾向としての扱いです。

速い球を投げる投手の多くは、真上からのオーバースローより、少し腕の位置が低いスリークォーターです。腕の位置が少し低い方が、腕の内旋(腕を内側にひねる動き)を強く使えるためです。内旋を生かす投げ方の投手は、シンカー系の球を得意にする傾向があります。反対に、フォークのように手首を立てて固めたまま投げる球は、こうした投手には合わないことがあります。「フォークを投げない」のではなく「投げられない」投手もいる、ということです。自分の腕の角度に合う球種から選びます。


フォーク・スプリットの作り方

ひとことで言うと、フォーク・スプリットは「スポッとさせる(回転数で落とす)」と「スポッとさせない(SSWで落とす)」の2系統に分かれます。

系統 落とし方 球速 回転数の目安 握り
スポッとさせる 回転数で落とす 遅い 500〜1300回転(800回転以下になるとナックルのような軌道) 深く挟む「挟むフォーク」
スポッとさせない(SSF) SSWで落とす 速い 1400〜1700回転 挟まない。いわゆる2シームの派生系

それぞれ、回転のかけ方(サイドスピン・ジャイロ・トップスピン)と、シームの出方(4シーム・2シーム・1シーム)によって、シュート系・真っ直ぐ系(自由落下)・スラ系などに分かれます。

STEP1|スポッとさせる感覚をつくる

STEP2|分岐させて、スピンを調整する

スポッとさせる感覚が養えたら、そこから「ジャイロ系」「トップスピン系」「サイドスピン系」に分岐させて、スピンの調整に入ります。ポイントは、片方の指を曲げることで、ボールへの圧が伸ばしている方に自然とずれることです。

STEP3|スポッとさせないフォーク(SSF)

深く挟むことなく、いわゆるツーシームを、指の間を開けて回転数を落としつつ、SSWで落とします。スピードが出しやすく、回転から軌道も読みにくいので、非常に打ちにくい球です。握りや回転のかけ方は豊富にあります。

STEP4|回転の種類(例)

ボールに印をつけて回転を確かめる

ボールの側面の革やシームに黒丸を書いておくと、回転の向きが目で見えます。2シームスプリットなら、親指側に持った黒丸が左上を向いたまま回る。1シームジャイロなら、シームのS字部分の中心に書いた黒丸が投手の方を向いたまま回る。これが狙った回転かどうかの目安です。

ボールに印をつけて握る

球種の組み合わせを設計する

ひとことで言うと、球種は1つずつではなく、球速と変化の「組み合わせ」で設計します。

中間球をつくる

球速で見ると、ストレート145キロ、スライダー130キロ、カーブ115キロのように、おおよそ15キロ刻みで球速帯が分かれていくのが一般的です。ここに、あえて間の球(中間球)を入れる考え方があります。

たとえば、ストレートとスライダーの間に140キロ前後のカットボールを入れます。変化量で見ても、カットボールはストレートとスライダーの間に位置する球です。打者は「今のは何の球だったか」と迷いやすく、狙いを絞りにくくなります。

カットボールは、それだけではあまり効果を出しません。ストレートとスライダーと組み合わせて、初めて威力が出る球です。ストレートとカットボールの2つだけなら球速差がほとんどないので、打者は怖さを感じません。そこに5〜10キロ遅いスライダーを加えた3球種になると、一気に打ちにくくなります。

スライダーとカーブの間なら、ゆっくり大きく曲がるカーブではなく、120キロ前後で縦に鋭く落ちる「速いカーブ」が中間球になります。

相性が悪い組み合わせがある

球種を増やすときに気をつけたいのは、左右逆方向に曲がる球の組み合わせです。スライダーとシュート、スライダーとチェンジアップがその例です。

理由は投げ方の違いにあります。スライダーは、できるだけ捕手寄りまでリリースを引っ張ってスライド回転をかけます。チェンジアップは、スライダーより早めにボールを離し、腕をスライダーとは逆の方向にひねります。シュート系の球も同じです。逆方向の動きを同じシーズンの中で投げ分けると、最初は投球全体にプラスに働いても、後半になって元々のスライダーのキレが落ちることがあります。特に左投手に多く見られます。

一方で、腕の振りやリリースの位置がほとんど変わらず、握りの工夫だけで変えられる球種は、この影響が出にくいです。曲がる系の変化球が得意でない投手には、腕の振りを変えずに投げられるフォークの方が合う場合もあります。

また、投手の本能として「打たれたくない」「もっと曲げたい(落としたい)」と思うほど、体を横にずらすなど余計な動きが入りやすくなります。新しい球を覚えるときは、この副作用も頭に入れておきます。


自分の投球タイプを知る

書籍『球速の正体』では、投手をストレートの球質で9つのタイプに分けて解説しています。ここでは9タイプすべてを紹介します。

自分のストレートの変化量を測り、どのタイプに近いかを知ると、どんな変化球と組み合わせるか、どう攻めるかの手がかりになります。

タイプ 変化量(縦) 変化量(横)
1 伸び系 上方50cm以上 利腕方向10〜30cm
2 伸びシュート系 上方47cm以上 利腕方向30cm以上
3 伸びスラ系 上方47cm以上 利腕方向−8cm以内
4 標準系 上方39〜45cm以上 利腕方向10〜30cm
5 標準シュート系 上方39〜45cm 利腕方向30cm以上
6 真っスラ系 上方39〜45cm 8cm以内
7 垂れ系 上方38cm以下 利腕方向20〜30cm
8 垂れシュート系 上方38cm以下 利腕方向30cm以上
9 垂れスラ系 上方38cm以下 利腕方向8cm以下

(『球速の正体』各タイプの「データ」より)

なお同書では、伸び系の目安を「ボールの変化量(上下)は、高校生だと48㌢、大学生以上だと50㌢以上の上方向への変化量があると『伸び系』に分類します」とし、打者が普段見慣れている球のホップ量を「41〜42㌢」としています。サイドスローやアンダースローでは、回転方向からシュート方向への変化が増え、「40㌢以上のシュート量があると、打ちにくくなるようです」とも書いています。

タイプ1|伸び系

「自然落下するボールと比較して50㌢以上上方に達するボールの『伸び』があること、シュート量が10㌢から30㌢であることです。ただし、球速が遅いとスピンの影響がたくさん出やすくなります。球速と伸びのバランスを取って、プロ野球の投手であれば140㌔台後半、アマチュアでも140㌔以上はほしいところです。」

同書は、「回転数の多さ×回転軸のタテさ×回転効率の高さ=ボールのホップ量」という式で、伸び系のストレートを説明しています。

タイプ2|伸びシュート系

同書は、ラプソードで計測すると「伸びは47㌢以上、シュート量が30㌢以上」の投手とし、「シュートすること自体は必ずしも悪いことではありません」と書いています。

書籍では、伸びシュート系の投手のストレートとフォークボールの差を、次の表で示しています。

球種 球速(km/h) 伸び(cm) シュート(cm) 回転数(毎分)
ストレート 161.0 47.0 32.8 2351
フォーク 144.4 1.6 2.7 1047
差 16.6 45.4 30.1 1304

(『球速の正体』表2-1より)

タイプ3|伸びスラ系

同書は、ラプソードの計測上で「ホップ量が47㌢以上、シュート量が8㌢以内」のボールと定義し、「ほとんどシュートしていない」ボールとも言える、としています。割合としては少ないタイプです。

タイプ4|標準系

同書は、「ホップ量が39〜45㌢、シュート量は10〜30㌢」の投手とし、「『標準』と言うくらいですから、このタイプの投手は当然かもしれませんが数多くいます」と書いています。打者にとっては「見慣れた打ちやすいボール」に感じやすいタイプです。

タイプ5|標準シュート系

同書は、ラプソードでホップ量が「39〜45㌢、シュート量が30㌢以上」の投手とし、「ほとんどのストレートはシュートします」と書いています。ラプソードではカットボールも「シュートしている」と表示されることもしばしばあります。

「シュート回転自体は、その投手の特徴であって何がなんでも矯正する必要はないと思います。」(『球速の正体』より)

同書は、そのうえで、投げ方が不完全なためにシュートしているケースには、アドバイスをしても良いとしています。

タイプ6|真っスラ系

同書は、ラプソードによる測定で「ホップ量が39〜45㌢、シュート量が8㌢以内」とし、実際にはスライドしているというよりも、「シュートするボールを見慣れている打者の目にはシュートしていないことで逆に、よりスライドして見える」ということが言える、としています。

真っスラ系の投手にとっての課題として、同書は次の2つを挙げています。

  1. ストレートの変化量が乏しくなること
  2. カットボール、スライダー系の変化球が投げやすい反面、シュート系、ツーシーム系の変化球が難しくなりやすいこと

ストレートの変化量が小さいうえに球種が限られていると、ピッチングが安定しにくいことは想像できます。同書は、まだ科学的エビデンスはないとしたうえで、回転効率の低さはコントロールにも悪影響を及ぼしているように感じる、としています。打者にとっては打ちづらいボールですが、投手にとってはパフォーマンスを安定させにくい「諸刃の剣」なのかもしれません。

「ちなみに、私の見てきた中では、スローイングで悩む選手やイップスになる選手も、指の長さの違いがあるように思います。メンタルが原因と言われることが多いイップスですが、実はこうした身体的特徴に要因が隠されているのかもしれません。」(『球速の正体』より)

「私の感覚では、6割近い選手が正しい握り方ができていません。指摘することや知識の上では示すこともできますが、握りをその場で変更しても、選手は嫌がり、根本的なボールの質を改善することはとても難しいといつも感じています。」(『球速の正体』より)

「練習での取り組みや工夫といった点に言及することが多くありました。」「『課題にアプローチ+選手ファースト』が重要だと改めて感じています。」(『球速の正体』より)

タイプ7|垂れ系

同書は、ラプソードでのホップ量は「38㌢以下、シュート量は20〜30㌢」とし、ゴロを打たせる投手であり、低めにボールを集めるタイプの投手だとしています。ボールが垂れる理由は、回転数が少ないか、回転効率が低いか、あるいはその両方なのかという3つのケースが考えられます。一種のクセ球と認識されるかもしれません。よほどの球速がなければ、ストレートでの空振りや三振を多く奪うことは考えにくく、おのずと試合では、ゴロを打たせてアウトを取るような投球になります。そのためには、低めにボールを集めることが大事になってきます。

「『ボールが垂れる』と、投手はプライド(本能?)として、力んで生きたボールを投げようとするものです。でも本来は、『低めに垂れるボールは武器なんだ』ということを理解させたいところです。」(『球速の正体』より)

打たせて取るタイプとなりますが、球速はより速い方が良いはずです。なので、球速の向上に関しては諦めない、なおかつ、ボールの高さは上げない、ということを理解させる必要があります。フィジカル能力や、投球フォームの問題で、ボールに十分力を伝えることができずに垂れ系となっている場合は、その点を改善していかなくてはなりません。

タイプ8|垂れシュート系

同書は、ラプソードの計測でホップ量が「38㌢以下、シュート量が30㌢以上」とします。サイドスローやアンダースローの投手はホップ量が出づらくシュート量が出やすいので、多くの投手が垂れシュート系に分類されます。とくにアンダースローの投手では、ホップ量がマイナスの数値になることもあります。角度によるものか、ラプソードでの計測結果には「ホップ量は少ない」と出ますが、見た目には「良く伸びているな」「ホップしているな」と感じることもあります。

「垂れシュート系のストレートを投げる投手、サイドスロー・アンダースローの投手は、一人でもチームにいると監督は大変重宝します。特に左投手でこのタイプがいてくれると本当にありがたいものです。」(『球速の正体』より)

「垂れ系のストレートに対して自打球が当たるようなファールを打ってしまう打者は、やはり打てる可能性が少ないと考えなくてはなりません。インサイドアウトのスイング軌道をきちんとマスターしているかどうかが問われることになります。」(『球速の正体』より)

タイプ9|垂れスラ系

同書は、ラプソードでは、「ホップ量が38㌢以下、シュート量が8㌢以下」を"垂れスラ"の基準とします。なかなか探すことが難しい希少な球質です。速いボールで三振も多く奪いますが、「三振か、ゴロか」というピッチングは長打の危険性が少なく、安定感のあるピッチングにつながっています。打者にとっては見慣れない、練習も難しいボールであり、しかも高速であると軌道を推測する時間も短く、攻略が困難です。

同書の「球団別投手タイプリスト」について

同書には、NPB12球団とMLB・往年の名投手を9タイプに分類したリストがあります。著者は、「投球データが公開されていないため、私の独断で分類しました」と断ったうえで、NPB選手の球速や球種割合等は株式会社DELTAのデータを参照したとしています。自分に近いタイプのプロ投手を探す手がかりとして、同書を参照してください。

球質を「完コピ」する

同書は、この章のまとめとして、球質の「完コピ」を勧めています。メジャーリーグでは、球質のビッグデータを蓄積し、「こういう特徴だと打たれにくい」という仮説を構築しています。

「こういった球質データの蓄積が、3章でもご紹介する最先端のトレーニング施設『ドライブライン』のピッチデザインプロセスブロガー(球種マスター・球質改善のための方法)の土台になっています。」(『球速の正体』より)

日本では、球質データが公開されていなくてなかなか難しい面もあります。同書の著者は、講演や指導の際には、「同じチームの良い投手の球質を、ラプソードで確認して完コピしましょう」と薦めている、としています。

PDPでやってみる

自分の球をSmartScoutで測り、上の表でどのタイプに近いかを確かめてください。そのうえで、同じタイプのお手本になる投手(チームの先輩でも構いません)の球質を目標にして、ピッチデザインの手順に沿って1つずつ近づけていきます。

逆方向に曲がる球は「相性が悪い」のか「有効」なのか

Part4の「相性が悪い組み合わせがある」では、スライダーとシュート・チェンジアップのような左右逆方向の組み合わせは、投げ方が逆になるため、元のスライダーのキレが落ちることがあると紹介しました。一方、『球速の正体』では、伸びシュート系・伸びスラ系の投手に、逆方向に曲がる球(チェンジアップ・ツーシーム)をマスターすると打ちづらくなると勧めています。 どちらも書籍の見解で、両方とも正しい面があります。分かれ目は、腕の振りやリリースを大きく変えずに投げられるかどうかです。逆方向の球を覚えるときは、元の球のキレが落ちていないかを、数字(変化量・回転効率)で確かめながら進めてください。


ピッチデザインの手順

ひとことで言うと、ここまでの内容を手順として並べると、次のような流れになります。これは測定機器メーカーの考え方を踏まえて今回整理した案であり、どこかの団体が公式に定めた手順ではありません。

  1. いまの球を測る:ラプソードで球速・回転数・回転効率・変化量を測定し、「今の自分の球」を数字で知る
  2. 狙う球の形を1つ決める:球種ごとに「何を伸ばしたいか」を1つ決める
  3. 握りを1つだけ変える:縫い目にかける指の位置、ボールの向きのうち、一度に1つだけ変える
  4. 投げて確認する:数値が狙った方向に動いたかを確認する。感覚だけで判断しない
  5. 動画で指の動きを見る:可能であれば、スロー動画でリリース時の指とボールの向きを確認する。高価なカメラは要りません。スマートフォンのスロー撮影で、リリースの瞬間だけなら十分確認できます。たとえば、人差し指で回転をかけたいのに、実際は中指でかかっていた、ということがよくあります
  6. ストライクが取れるか試す:数値が良くても、実際にストライクゾーンに入らなければ使える球にはなりません。制球面も確認します。さらに、打者に立ってもらい、反応を確かめます。
  7. 変化球は段階を踏む:ストレートとチェンジアップが安定してから、カーブ・スライダー系に進みます

仮説を立てて、確かめて、また直す

新しい変化球の改良は、試合が少ない時期(オフシーズン)に取り組み、実戦に近い場面で試していくのが一般的な流れです。参考にしたい投手がいれば、その投手の球速・回転数・回転軸・変化量を目標にして、自分の球を1球ずつ測りながら近づけていきます。リリースの手首の角度を何度変えると、変化量が何センチ変わるのか。仮説を持って確かめ、その結果をまた次に生かす。この繰り返しがピッチデザインです。

一度で変わると思わず、基準を少しずつ変えて確かめ続ける

たとえば、回転効率(ボールの回転がどれだけ変化に使われているか)が低い投手が、握りを調整する練習を重ねることで回転効率が大きく上がり、球速も上がった、という目安の実例が紹介されています。これは単一の実例であり、全員に同じ結果が出ると約束するものではありません。ただ、「握りを1つ変えて、数値で確かめる」という手順そのものが、ピッチデザインの考え方を体現しています。単一の正解を探すのではなく、いくつかの基準を少しずつ調整しながら、自分に合う形を見つけていく取り組み方です。


Part5|打者が打ちづらいボールを投げる

ひとことで言うと、打者から見て見分けにくい・打ちにくいボールを、軌道と角度とコントロールから考えます。


ピッチトンネル|同じ軌道で見分けにくくする

ひとことで言うと、打者が球種を判断する手前まで、どの球も同じ「トンネル」を通すことが、勝てる投手に近づく指標の一つです。

ピッチトンネルとは、リリースから打者までの間で、ボールが同じ軌道を通る空間のことです。打者が球種を判断する手前のポイント(ホームベースからおよそ7メートル前後)まで、ストレートも変化球も同じトンネルを通して投げ込む意識を持ちます。入門編としては、全投球の約70%をこのトンネルに通すことを目指しましょう。

なぜ7メートル手前なのか|打者に残された時間

バッテリー間は18.44メートルですが、投手はステップしてから投げるので、リリースからホームベースまではおよそ16.6メートルです。150キロのボールなら、約0.40秒で捕手に届きます。 この0.40秒の中で、打者は次のことをこなしています。

最後の「指令+スイング」の約0.175秒は、もう判断を変えられない時間です。距離にすると、ホームベースからおよそ7メートル手前になります。ここまでストレートに近い軌道で来れば、打者は見分ける前に振る準備に入らなければなりません。

そのためには、トンネルを長く通せる小さな変化球が有効です。手元でわずかに変化するので、打者はスピードを錯覚しやすく、芯を外して打ち取れます。

トンネルの土台になるのは、やはり強くて速いストレートです。ストレートをトンネルの中に通せるから、ほかの変化球が生きてきます。そのうえで効くのが、カットボール・ツーシーム・スプリット・シンカーのような、ストレートに近い変化球です。かつては大きく曲がる球が「良い変化球」と思われていた時代もありましたが、変化が大きいほど、打者は球種を見分けやすくなります。

良い投手とそうでない投手では、リリースの瞬間の軌道に大きな違いがあります。良い投手のフォークは、リリースからストレートと同じようにまっすぐ出ていきます。そうでない投手のフォークは、一度ふわっと浮く局面があります。レベルの高い打者は、この一瞬で「ストレートとは違う」と判断します。スライダーも同じで、一度横にずれて膨らむように曲がるのはアマチュアに多い軌道です。これでは、トンネルを通っても打者を惑わせるのは難しくなります。

そして、どれだけトンネルを作っても、変化球のときだけ腕の振りが緩むなど、ストレートとの違いがフォームで分かってしまえば意味がありません。

カーブは、少し別の考え方をします。投げた瞬間に上へ浮き上がってから落ちてくるので、トンネルからは明らかに外れます。それでも、トップスピンがしっかりかかったカーブを投げられる投手は少なく、打者が目にする機会も少ない球です。上へふっと浮く分、打者の目線や重心もつられて上がります。ストレートに狙いを絞っている打者ほど、早いカウントでは手を出しにくい球です。

大きく曲がる変化球は、難易度が高い球です。まずは小さい変化球を覚え、ピッチトンネルを作って打ち取るところから始めましょう。

打者を立たせて、反応を確かめる

マウンドで黙々と練習するだけでは足りません。実際に打者に立ってもらい、反応を確かめてください。自分ではピッチトンネルを作れたと思っても、相手の打者には見極められているかもしれないからです。投手にとって大事なのは、いかに実戦で抑えるかです。そのためにも、本番に近い環境で試してください。

研究の面では、ストレートの軌道から変化球の軌道をどこまで推定できるかを調べた研究や、球種ごとのリリースポイントのそろい方が見分けにくさにつながりうることを示した研究があります。ただし、いずれも単一の研究で、この分野の研究はまだ少ない段階です。


数字に出ない「打ちにくさ」

トラッキング機器が進んでも、分からないこともたくさんあります。その1つが「打ちにくさ」です。同じ球速・回転数・回転軸の球を投げていても、打たれる投手と抑える投手がいます。MLBのアナリストもここに注目し始めていますが、はっきりした答えはまだ出ていません。

「ボールが見えにくい」フォームが関係している可能性はあります。ただ、見やすい・見えにくいの差が大きく影響しているというデータは出てきていません。とはいえ、体の回転より先に、利き手が頭から早く離れていく投手が打者から見やすいのは確かです。こうした投げ方は肘への負担も大きいので、直すべきフォームです。

もう1つの手がかりは、前足を着いてから、ボールを離すまでの時間です。この時間は投手によってばらばらです。同じストレートでも、ここに微妙なズレがあります。「球持ちがいい」「間がある」と言われる投手は、前足を着いてから腕が出てくるまでに時間があります。腕が急に出てくるので、打者はストレートに詰まらされ、抜いた球には泳がされます。真似するのが難しい、職人技と言える部分です。


VAA|ホームベース上で入ってくる角度

ひとことで言うと、VAAは、ボールがホームベースの上を通るときの縦の角度です。角度が浅いほど、打者にはボールが浮き上がって見えます。

VAAは「Vertical Approach Angle」の略です。0度が地面と平行で、マイナスが大きいほど、斜め下に落ちていく軌道になります。投手は高いマウンドから、座っている捕手に向かって投げるので、ストレートでも必ずマイナスの角度になります。書籍では、MLBの平均はマイナス4〜7度と紹介されています。この平均よりマイナスの角度が浅いストレートは、打者には浮き上がって見えます。

背景には、打者側の変化があります。MLBでは、打球に角度をつけるためにアッパー気味の軌道でスイングする打者が増えました(フライボール革命)。その対策として広がったのが、高めのフォーシームです。スイングの軌道に対して、ホップ成分の強いストレートを高めに投げ込むと、バットとボールが当たる接点が狭くなります。長く「低めが基本」と言われてきましたが、今はそうとは限らない、という考え方になっています。

角度が浅く、ホップ成分の多いストレートを追い求めていくと、ソフトボールのライズボールのような軌道が理想になります。リリースの位置が低く、そこから浮き上がるようなストレートは、それだけで武器になります。

VAAを測るには

VAAはラプソードの画面にも表示されます。SmartScoutの8項目には入っていません。PDPでは、縦の変化量(ホップ成分)とリリースの高さから、自分のストレートの軌道を考えるところから始めます。


軌道をイメージする力


コントロール(コマンド力)を評価する

ひとことで言うと、コントロールの最後の決め手は、手(指)の調整能力です。

速い球を投げる仕組みは、ほぼ分かってきました。こうなると、速いだけでは差がつかず、投手に必要な力として「コントロール」に注目が移っています。MLBでは「コマンド力」と呼ばれます。間違いなく言えるのは、球速を上げるよりも、コントロールを高める方が難しいということです。18.44メートル先の的に向かって、ただ投げるのではなく、ボールに回転をかけて、打者が打ちにくいところに投げなければいけません。

コントロールのいい投手に共通することは、大きく4つあります。

  1. 手(指)の調整能力
  2. ステップ足が着いたときの肩の外旋(肘が上がっている)
  3. ステップ足の向きの安定(前の膝の向き)
  4. リリースのときの体幹の安定(上体が倒れないようにする)

さまざまな研究で特に大事だとされてきたのが、1つ目の手の調整能力です。「コントロールがいい=フォームの再現性が高い=リリースポイントがいつも同じ」と考える人は多いかもしれません。しかし、これは都市伝説に近い考え方です。大学野球の国際大会で日本人投手のリリース位置を上から見た記録では、同じ球種でも20〜40センチほどのばらつきがありました。プロの一流投手でも、数センチ単位のズレは起きています。

それでもコントロールがぶれないのは、最後にボールを持った利き手で調整をかけているからです。「リリース感覚が優れている」という言い方がありますが、この調整能力とつながる部分があります。今のところ、感覚を一気に磨く方法はありません。結局は、ボールを投げなければ身につきません。全力で投げる必要はなく、50〜60%の力感で、狙ったところに投げることで感覚を磨きます。

狙ったところから、何センチずれたか

アメリカでは、かなりアナログな方法でコマンド力を調べています。捕手の構え(投手が狙った場所)から、実際のボールがどれだけずれたかを数字で記録する方法です。MLBのトップ投手で、ずれは約12インチ(約20センチ)と言われます。一流投手でも、本当に狙ったところにぴったり投げられるわけではありません。逆に言えば、あまり細かいところを狙いすぎるのも良くないのかもしれません。

大学生の主力投手を対象に、リーグ戦の投球を1球ずつ振り返ってもらい、「狙った場所」と「実際に行った場所」を図に描いて調べた例もあります。もっともコマンド力に優れた投手で、ストレートも変化球も約16センチのずれ、コントロールが普通の投手で約25センチ、不安定な投手で約35センチでした。アナログな方法ですが、今の自分のコマンド力を知ることができます。

PDPでやってみる

捕手に構えてもらった場所と、実際に行った場所を、1球ずつ記録してみてください。スマホで捕手の後ろから撮っておけば、後から確かめられます。この「ずれの大きさ」が、今の自分のコマンド力の目安になります。


変化球と肩肘

ひとことで言うと、「投球数が多いと肘・肩の痛みのリスクが上がる」ことは複数の研究で一致しています。一方で「カーブボールそのものが危険だ」という主張は、研究間で結論が割れています。

少年野球投手を対象にした疫学調査では、カーブボールを投げることが肩の痛みのリスク増加(約52%増)、スライダーを投げることが肘の痛みのリスク増加(約86%増)と関連していたと報告されています。また、1試合・1シーズンの投球数が多いほど、肘・肩の痛みの発生率が高いことも示されました。

一方、9〜14歳の少年投手481名を10年間追跡した別の研究では、年間100イニングを超える投球が重傷リスクを有意に高めることは確認されたものの、13歳以前にカーブボールを投げることが障害リスクを増加させるという関連は、この研究では示せなかったとされています。

この2つの研究は、変化球そのものに関する結論が食い違っています。投球数が多いことが肘・肩の痛みと関連することは複数の研究で一致していますが、「カーブは危ない」という主張は、研究間で結論が割れているテーマとして扱う必要があります。どちらか一方の研究だけを根拠に、断定することはできません。


私の考え|曲がり幅の大きい変化球より、小さな変化球を

日本では、曲がり幅の大きい変化球が好まれがちです。ですが、大きく曲がる変化球は難易度が高く、長い目で見ると必ずしも得策ではありません。曲がり幅の大きい球は、フォームの崩れにつながりやすく、肩・肘・関節への負担も大きくなりやすいと私は考えています。再現性を高め、長く投げ続けるために、小さな変化球とピッチトンネルを意識した組み立てを優先してください。


当日やること

当日の内容は、当日お伝えします。


次回に向けて

次回(第7回)は「コンディショニング」です。10月20日(火)に行います。今日確認したピッチデザインと握りの内容を踏まえ、次は体のコンディションを整える部分を扱っていきます。


第7回までの課題

課題① 今日の動画を見返す

自分の投球動画を見返し、リリースの瞬間、中指・人差し指のどちらに圧がかかっているか、回内がどのタイミングで入っているかを確認してください。

課題② 自分の球の数字を知っておく

ラプソードなどで測定できる環境がある場合は、自分の球速・回転数・回転効率・変化量を確認し、自分の球の特徴(シュート回転の強さなど)を知っておいてください。

課題③ 疑問点をメモしておく

ピッチデザインや握りについて、当日話した内容以外で気になったことがあれば、次回に持ってきて質問してください。


第6回のまとめ

今日は、前回のリリースとフォロースルーの話を、指先とボールまでつなげる回でした。

Part1 握りと手の構造:指は骨で捉えると、力が伝わり、マメや爪割れも防げます。中指と人差し指に均等に圧がかかればまっすぐ進み、偏ればその方向に曲がります。握りは、親指・隙間・2本の指の閉じ方で安定し、最後は手の中の細かい筋肉(手内在筋)による調整が効きます。

Part2 ボールが変化する原理原則:ボールの変化は、回転数そのものよりも回転軸の向きで決まる部分が大きく、縫い目の向きも別の力として軌道に関わります。球質は、球速・回転数・回転軸の3つで見ます。回転軸は、その日の体の状態でも変わります。

Part3 トラッキングデータの数値を読む:ラプソード・SmartScout・Baseball Savantの数字は、ここまでの原理原則を数字にしたものです。調子のいい日だけでなく、測り続けることで意味が出ます。

Part4 自分の強みを活かす:シュート回転は悪ではなく、周りとの違いを強みにできます。球種は1つずつではなく、球速と変化の組み合わせで設計します。

Part5 打者が打ちづらいボールを投げる:打者が見分ける手前まで同じ軌道を通すこと、角度、そして狙ったところに投げるコマンド力です。

忘れてはいけないのは、投手の役割は打者をアウトにすることだという点です。数字は、そのために使います。変化球と肩肘の関係については、投球数が多いことのリスクは複数の研究で一致していますが、「カーブは危ない」という主張は研究の間で結論が割れていて、断定はできません。

次回はコンディショニングです。ここまで積み上げてきたピッチデザインの考え方を支える、身体の土台を整えていきます。


次にやること(第7回までの行動リスト)

  1. 今日の動画を見返す:リリースの瞬間の指の圧のかかり方、回内のタイミングを確認する
  2. 自分の球の数字を知っておく:測定できる環境があれば、球速・回転数・回転効率・変化量を確認する
  3. 疑問点をメモしておく:第7回(10月20日)に持ってきて質問する
  4. 毎日体重を測る:朝・夜の2回が理想

迷ったらこのリストに戻ってきてください。


参考文献

論文

記事・公式ページ


用語集

本文中の専門用語(リンク色の語)をタップすると、ここに飛びます。各語にカーソルを合わせると説明も表示されます。

用語 意味
ピッチデザイン 狙う球の形を決め、測定機器で数値を確認しながら、握りやリリースを調整していく一連の取り組み
マグヌス効果 回転しているボールの周りの空気の流れが変わり、揚力が生まれて軌道が曲がる物理現象
回転効率 ボールの総回転数のうち、変化(movement)に実際に使われている回転の割合
ジャイロ回転 アメフトのボールやライフルの弾のような、進行方向に対してまっすぐ回る回転。変化にはほとんど寄与しない
縫い目の後流のずれ 縫い目の向きによって空気の流れが片側だけ早く剥がれ、回転だけでは説明できない追加の変化が生まれる現象(Seam-Shifted Wake)
スイーパー 従来のスライダーより横の変化が大きい球種。2023年にStatcastが独立した球種として分類に追加した
エクステンション 投手がボールをリリースする位置が、プレートからどれだけ前に出ているかを表す距離
腕の角度 リリース時の、投球側の肩とボールの位置を結んだ線が地面と作る角度。2024年からBaseball Savantで公開されている指標
DIP関節 指の第1関節(遠位指節間関節)。指先に近い関節
PIP関節 指の第2関節(近位指節間関節)
MP関節 指の根元の関節。手のひらに一番近い関節
回内 リリース直後に前腕が内側にひねられる動き。全身での減速の一部として自然に出る
中心衝突 指の骨とボールの中心が正面からぶつかり、力を最も効率よく伝える当たり方
偏心衝突 指とボールの中心がずれた当たり方。力の伝達効率は落ちるが、変化や角度など別の効果が生まれる
鉤爪リリース 指が遠心力で一度伸びた後、最後の瞬間だけ曲がってボールを離す指の形
LEGOリリース 握りの形を一定に保ち、腕を振って生まれる遠心力が指のホールド力を上回った瞬間にボールが離れる、というリリースの考え方
ホールド力 指がボールをつかみ続ける力。遠心力とのバランスで、リリースのタイミングが決まる
対立握り 親指を横に向け、指とボールの隙間を埋め、人差し指と中指を閉じるという3つの要素を備えた握り方
リリースアングル 指先から出るボールの向きを0度とし、上向きをプラス、下向きをマイナスで表す数値
繊細な把握 イメージした通りの力加減でボールをコントロールする能力
手内在筋 スタートもゴールも手の中にある筋肉。握りの微調整を担う
手外在筋 手の外から始まり、手の中で終わる筋肉。指を大きく曲げる力を担う
なんちゃってジャイロ バックスピンをかけているつもりで、回転軸が進行方向側にずれてジャイロ回転になってしまう状態
球質 球速・回転数・回転軸を合わせて見たボールの質
中間球 2つの球種の間の球速・変化量に入れる球。カットボールや速いカーブなど。打者が狙いを絞りにくくなる
VAA Vertical Approach Angle。ボールがホームベースの上を通るときの縦の角度。マイナスが浅いほど浮き上がって見える
Eversion(イーバージョン) 軸足の股関節を外に開く動き。プレートを長く押して力を生む
コマンド力 狙ったところに投げる力。狙った場所から実際の球が何センチずれたかで評価する
内旋 腕を内側にひねる動き
回転方向 ボールの回転の向きを時計の針に見立てて表したもの。投手から見てバックスピンが12時、トップスピンが6時
ジャイロ角 進行方向に対する回転軸の傾き。回転軸が進行方向と直角なら0度、進行方向と一致すれば90度
変化量 重力とは関係なく、回転によって作り出された力。上(ホップ)と右がプラス、下(ドロップ)と左がマイナス
有効回転数 回転数に回転効率をかけたもの。実際に変化に使えている回転数
回転数 投げた球を1分間回転させ続けたと仮定したときの数値
偶力 人差し指・中指の作用点に力を加えることで生まれる、ボールを回転させる力
力積 物に触れている時間を伸ばすほど、エネルギーを伝えられるという考え方
復元力 くぼんだ場所に力をかけると、中心点に向かって力が集まりやすい性質
運動連鎖 体の関節が効率よく動くための、決まった動きの組み合わせ。丸々組み合わせと反る組み合わせの2種類
SSW(シームシフトウェイク) 縫い目の位置や傾きで空気の流れが非対称になり、回転による変化とは異なる方向へ変化が生じる現象。「縫い目の後流のずれ」と同じもの
SSF(スポッとさせないフォーク) 深く挟まず、指の間を開けて回転数を落としつつ、SSWで落とすフォーク。いわゆる2シームの派生系